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眠れない、でも起きていたくもない。
澱んだ気分のまま、何もかもが通り過ぎてゆく。
溜息をついて、瞼を閉じる。
ああ、暗闇の中に何かが沈んでいるような気がする。
でもそれが何かは、解らない。
諦観か、疲労か、もっと深いところに沈んだ怒りや、喜びを求める気持ちなのかもしれない。
巧く言えないまま、それはずっと漂っている。
振り払いたい、と言う気持ちも起きない。
深く重くなってしまった自分の記憶。自分と周囲の乖離。埋めがたい力量の差や人間関係。
感情と義務感が別の方向を向いていて、スパゲティー・コードみたいに絡まっている。
錯綜しすぎて、このまま世界なんて滅んでしまえ、と思うような破滅願望が心を過ぎる。
しかし現実には何も起きない。
魔法は失われ、感情は解体され。知識、技術、記憶としても、個人の意味は薄れていく。
論理的な言葉が、好きなものをルーチンにすぎないと解説する。
すごいと想うものを過去の手法に沿ったものだと指摘し。
大して、と思うものを賞賛してる。
客観の事がよく解らない。
客観と主観はいつも乖離するものだけど。最近、彼らはミキサーのように高速で回転を続けている。
遠心力で離れて行き、同じものを見ている筈なのに遠い気持ちになる。
そして社会で生きている以上、関係性を崩さないようにバランスを保ちながら、暮らすしかなく。
そのために仮面を被り、記憶も主張も感情も全てミキサーに放り込み。
どろどろの液体になるまで砕かれた、原型を留めない気持ちを抱えながら、口にする。
そうですね。
そう思います。
私もあれが嫌いですよ。
私の姿は何処にあるのだろう。
風に揺れるカーテンから、朝の斜光が滑らかな私の手を映す。
手を握ると、それも小さく動く。
自分の鼓動を聴く。
心臓の音がする。
息を吸う。
窓の外には、青空が広がり、風はいつも通り吹き始めている。
沢山の人たちがそれぞれの服と顔をして歩き、画一的なものの印象は薄まっていく。
でも、ネットワークも人の姿も、心の内も社会のひとつ。
人の姿が多様すぎ、渦巻いて把握できない世界に1人、たたずんでいる。
ため息をひとつ。
何となく。
携帯電話を取り出し、先輩に電話をかける。