幻想廃墟の裏庭空間

「そこに真っ白な空白があると、何かを書きたくならない?」

承認欲求って知ってる?

人に認められたい、という気持ち。

そんな感じ。

思い当たるところがあるの?

うん。

認められて楽しい事なんてないのに

でもついつい求めちゃう

私はこんなものを作ったぞ

私はこう思ったぞ。

私は、こう生きているんだ

それでどうなるわけでもないのに、でも、求める事をやめられない

愛されるという事の空虚さも

楽しませるという事の虚しさも

自分を信じ切る事の罪深さも分かっているのに。

人を求める事は、どうしてか、やめられない。

認めて欲しい。

知って欲しい。

楽しんでほしい。

願ってもかなう事なんてないのに。

本当に人間は不思議ね。

そうね、でも、だからこそ、という事があるというのが。

人間の面白い所で。

可能性でもあるのよね。

歪んでいるね。

私たちもね。

意識と知識を持った以上、歪まない生物なんていないから大丈夫。

ただあなたは、胸を張って、生きていればいいの。

ところで私は思うのだけど。

何?

貴女の好きなものは?

Lafaだけど。

え、何?

Lafa、妖精と言う意味合い。主に西の方で使われているわ。

そういえば、貴女は何処の出身だっけ?

ElAnEsの幹の方にある世界、Avlrorのさらに下の方。

ごめん、何を言ってるか解らない。

解らなくてもいいと思う。そもそも私たち、此処がどこかも分からないでしょう?

そうでした。

そういえば私達、何でここにいるんだろう。

おいしそうな香りがしたからじゃない?

例えば?

林檎の香りとか。

珈琲の香りもね。

ワインの香りもそう。

漬物の香りは奇妙だけど癒されるし。

焼き魚や刺身のひんやりとした香りも捨てがたいわね。

ハンバーグやステーキの香りも食欲をそそるわ。

山菜やみそ汁も素敵ね。

パスタやピザもいいわ。

さて、彼らの今日の晩御飯は何かしら。

楽しみね。

楽しみね。

 

日常と非日常、現実と異世界と言うのはさして遠い所ではないと感じるの。
そんな事を彼女は言う。
例えば普段歩く道端からマンホールを降りれば、大抵の人にとっては未知が広がっている。

思い切って別のバスに乗ってみたり、知らないお店に入ったり、全く縁のない知識について学んでみると、新しい世界が広がるかもしれない。それこそ、大人の世界と子供の世界が違うように。
確かに面白そう、と思って。視点を動かして世界の覗き方を変えてみる。
昨日から今日を見つめ、一行後から一ページ前を読んで、いつもの扉を開くと人の身体より大きな蜘蛛が覗いていて。
毛の生えた、硬質の足が耳をかすめ、透明な毒が滴る器官が目の前に突きつけられる。
そんな想像は無意味だけどね。と彼女は言う。
そうかな、と彼女は返す。
なにが起きるか解らない、と言うのは面白いじゃない、と彼女は微笑みながら珈琲を飲んでいた。
私はその通り、と頷き。
私はそうでもないと思う、と少し苦い顔をする。
私は前後の文脈が繋がってないのは気持ち悪い。と髪を揺らし。
でも行間を読むことが物語を楽しむ秘訣だと思う、と眼鏡を直し。
そうだけど限界と言うものがある、と私は蒼い裸眼で相手を糾弾した。
相手は笑い。
相手はナイフを突き立てて、心臓から紅いものがあふれてきて。
相手はささやかな握手を求めた。
どことどこが繋がっていて、どことどこがつながっていないのだろう。
パズルのピースのように拡散された世界を覗く。
万華鏡みたいな世界が怖くなって、自分の喉にナイフを突き立てる。
そして、おいしいチーズフォンデュを食べてから、秘蔵のワインを喉を鳴らして飲み込んだ。
私は彼女と楽しいゲームの話をして。
ずっと語らい。
もう何も認識したくない、と屋上から落ちて。
好きなあの人に抱きついて。
あんな事をしなければ良かったと始まりを悔やみ。
終わってみれば楽しかった、と思える。と風の吹く丘の上でほほえみ。
紅い血が流れて死んだとしても、別の行にいる私は生きていることに気づく
収束に向かっているはずなのに、順番を間違えただけで総てが狂っていく。
殺して欲しい、と泣きついて。
尊敬する先輩と肩を並べ、アイスを食べて。
今日も今日とて、私は日常を生きている。

 

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朝、庭の様子を見ていると、春の日差しに雪が溶け、乾いた土と薄い色合いの草花が、ひょっこりと顔を出していた。
冬の重さにつぶれ、殆どが横たわっている彼らのうち、ひとつだけ背を立てた名も知れぬ草がある。
思わず彼を覗き込んでみると「やあやあ、ずいぶん世界は様変わりしたもんだね」と声が聞こえた。
私はそれに言葉を返す。他ではどうかは解らないけれど、ここでは言葉をかけられたら返すのがささやかな礼儀なのです。それが喩え草木や花や風でも、素敵な女の子でも変わらない。
それは、君、冬の間は大変だったんだぞ、吹雪はあるし家の戸が埋もれてしまう、道を作らなければ商売もままならない。その上子供がはしゃぎすぎて迷子になる。
ふむふむ、冬の事は良く解らないから聴いていて面白いな。
彼がそう言った瞬間、強い風に巻かれて彼は道の先へと飛んでいった。
あれは大丈夫なの?と松の木に聴く。
まあ、ああして他の土地に根を張るか、そうでなければ枯れていくのが彼らの生き方だから。
自分からは動けないのに?
動けないから、風や雨、周囲の動物に流されて行くしかない。
それは生きていると言えるの?
貴女は彼の声を聴いたんだろう?
うん。
じゃあ、彼は生きているって事さ。
そう言うものなの?
そういうことにした方が、きっと、色々なことが楽しくなる。私たちにとっては、生も死も、とても緩やかな営みの一つなのだから。

 

 

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地平線まで広がる灰色の空は風に揺らぐこともなく。

ここでは、いつも瓶の中に蓋をしているみたいに厚い雲が留まっている。
憂鬱な天気に気だるげな薄い光。
目を瞑り、布団にくるまり二度寝に入ると生真面目なアラームが雷のように鳴り響く。
仕方なくベットから身体を起こし、テーブルの端で落ちそうなタブレットを手に取り音を止め、ホーム画面にあるアイコンから音楽を流す。
ややハイテンポな、透き通るようなピアノが青空を思わせる、ひとつの曲。

少し瞳を閉じてそのリズムに耳を傾け、小さく息を吸い、改めて窓の外を見る。
灰色の町並みに蛇のような電車が走り、その周りには色のない森とひび割れたアスファルトの廃墟達。
そこには懐中時計を持った兎のサラリーマンや公園のベンチに座り新聞を読む鳩、煙草を吸って空を見上げる狼など、無数の指向性を持つ人達が灰色の道を歩き、紅い車が交差点を曲がっていった。
まるで瓶の中にあるミニチュアみたいな世界。
それでも、私はここで生きるしかない。
世界の色が灰色であろうと、周りの人が動物に見えたとしても、それが私の認識から来る違和感に基づいたものだとしても。
この世界でひとつだけみつけた、青色の硝子を鞄につけて、自分の欲求について考える。読みたい本、聴きたい曲、描きたい絵、友人の兎のような笑顔、自分が自分として生きるためのリストを心にしまい込んでから、スーツに袖を通して、ひとつだけ大きなため息をつき、仕事へゆく。
大きめのヘッドフォンをつけて、心に曲を抱きながら。
瓶の中で廻り続ける灰色の社会に、しかし新しい色彩を探せるように。
ほんの少しだけ、期待しながら。

 

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ぶろぐ、はじめました。

ブログを始めたよ。

ブログとは何かな?

WebLogの略だと思う。要するに、何かをログに残す事。

何か残したいことがあるの?

そんなにないけれど、日々起きたことをただ受け流すのではなくて、受け止めて、咀嚼して、飲み込んで、形にして、言葉にして、それを残す事で創作の範囲が広がるんじゃないかなって。

それで、足元を確認してゆっくりと歩き出す所から始めたいから、まず足跡を作ろうっていう事?

そうね。

迂遠だねえ。

まあいいじゃない。それに今書いた時点では意味が無くても、明日には産まれているかもしれないし、別の人が何となく見出すかもしれない。それとも何も生まれないかもしれない。そういう偶然性?みたいなものも眺めてみたいし。

ふうん。

私達自身、名前も、目的も、形もなければ声も、内蔵も目も耳も口もないけれど、文章上に存在しているという、やんわりとしたものでしょう?

私は、ここにいる。と言えば文章上は存在する事になるから不思議だよね。

そうね、そういう不思議さを求めた上で眺めてみたいから、この場所を作ったの。