幻想廃墟の裏庭空間

「そこに真っ白な空白があると、何かを書きたくならない?」

枕の中に顔を埋めてから、くるりと仰向けになり、白い天井を眺めている。
淡い壁紙の模様と揺れるカーテン、ささやかな風の薫りが頬を撫でる。
手のひらを上げ、指先をじっと眺める。
私の意思に応じて指先は動く。
そのまま人差し指で首筋をなでると微かな不快感。
胸に手を当てると心臓の音がする。
なぜだか解らないけれど、私は生きている。
心臓に止まれと意志を出しても止まらない。
身体に布団から出ようか、と提案しても動かない。
私は一体なんなのだろう。
朝のカーテンは爽やかに揺れて陽の光に影を作る。
布団を握ると柔らかく暖かい。
何故か。
何故だろう。
形にならない問いかけは、消化できずにお腹のあたりにたまっている。
整理できない想いが喉に詰まって唾を飲む。
倦怠感と沼の中にいるように重い身体。
寝転んだ姿勢のままにスマートフォンを手にとって、今頃あの子は何をしているのだろうとぼんやりと思う。
想いながらも情報が開けない。
鍵のかかったドアノブを、解ってるのに回してみる感覚。
ガチャガチャと音を立てて、そこに鍵がかかっていることを確認している。
そのようにアイコンをぼんやりと眺めてから放り出し、布団の中を横に転がると、髪の毛が顔に被さり、それを払うと、携帯電話から通知音。
上半身を起きあげて、姿勢を正して。放り出したものを手にとりまして。
ちょっと息をためてから、アイコンを押し、カーテンをあける。
陽の光が差し込み、彼女の声が聞こえてきた。
うん、そうそう。昨日はどうしたの?大丈夫?それはよかった。うん、またね。次はもっと美味しいものをご馳走するから、覚悟してね?
通話を切ってから、大きく息を吸う。
不思議な事に、切っ掛け一つで気持ちがころころ変わる。
私はいったい何なのだろうか。
漠然と自分の気持ちに戸惑いながら、カーテンをあけて青空を眺めると。
大きな鳥が、自由気ままに蒼空を飛んでいた。