幻想廃墟の裏庭空間

「そこに真っ白な空白があると、何かを書きたくならない?」

蒼い夜と小さな星灯りの下、ベンチに座り、身体を伸ばして、ため息を一つ。
足元で白い猫がのんびりと足下を八の字に歩いていたので、何となく拾って喉や頭をなでてあげると、彼はごろごらと不思議な音を出しながら膝の上で丸くなる。

公園に吹く、なだらかな風。
呼吸する猫の命が暖かく、柔らかい。
木の葉がささやかな歌を歌い、花壇に咲くアイリスがその蒼い花びらを傾ける。
時計の針は今日も今日とて進み続け、猫の心臓は動き続けている。
街を彩る灯火と、ライトをつけた自動車が海底をゆく潜水艦のように道を照らし。
無骨なコンクリートの建物たちが巨人のようにたたずんでいる
公園には、猫と私だけが取り残される、
満点の星空の下、忙しく廻る社会を尻目にして。
私はのんびりと生きている。
例え事故で腕を失っても、周りの誰かが居なくなっても、家や大切な者が消えていっても。
こうしてベンチに座り、空を仰ぎながら猫を抱くだけでも、何となくいやされる。
駆けめぐるような今日と明日の狭間、頼りない日常を抱いている私のそばで。
猫の間延びしたあくびが、空に溶けていった。