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幻想廃墟の裏庭空間

「そこに真っ白な空白があると、何かを書きたくならない?」

朝、庭の様子を見ていると、春の日差しに雪が溶け、乾いた土と薄い色合いの草花が、ひょっこりと顔を出していた。
冬の重さにつぶれ、殆どが横たわっている彼らのうち、ひとつだけ背を立てた名も知れぬ草がある。
思わず彼を覗き込んでみると「やあやあ、ずいぶん世界は様変わりしたもんだね」と声が聞こえた。
私はそれに言葉を返す。他ではどうかは解らないけれど、ここでは言葉をかけられたら返すのがささやかな礼儀なのです。それが喩え草木や花や風でも、素敵な女の子でも変わらない。
それは、君、冬の間は大変だったんだぞ、吹雪はあるし家の戸が埋もれてしまう、道を作らなければ商売もままならない。その上子供がはしゃぎすぎて迷子になる。
ふむふむ、冬の事は良く解らないから聴いていて面白いな。
彼がそう言った瞬間、強い風に巻かれて彼は道の先へと飛んでいった。
あれは大丈夫なの?と松の木に聴く。
まあ、ああして他の土地に根を張るか、そうでなければ枯れていくのが彼らの生き方だから。
自分からは動けないのに?
動けないから、風や雨、周囲の動物に流されて行くしかない。
それは生きていると言えるの?
貴女は彼の声を聴いたんだろう?
うん。
じゃあ、彼は生きているって事さ。
そう言うものなの?
そういうことにした方が、きっと、色々なことが楽しくなる。私たちにとっては、生も死も、とても緩やかな営みの一つなのだから。

 

 

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