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幻想廃墟の裏庭空間

「そこに真っ白な空白があると、何かを書きたくならない?」

地平線まで広がる灰色の空は風に揺らぐこともなく。

ここでは、いつも瓶の中に蓋をしているみたいに厚い雲が留まっている。
憂鬱な天気に気だるげな薄い光。
目を瞑り、布団にくるまり二度寝に入ると生真面目なアラームが雷のように鳴り響く。
仕方なくベットから身体を起こし、テーブルの端で落ちそうなタブレットを手に取り音を止め、ホーム画面にあるアイコンから音楽を流す。
ややハイテンポな、透き通るようなピアノが青空を思わせる、ひとつの曲。

少し瞳を閉じてそのリズムに耳を傾け、小さく息を吸い、改めて窓の外を見る。
灰色の町並みに蛇のような電車が走り、その周りには色のない森とひび割れたアスファルトの廃墟達。
そこには懐中時計を持った兎のサラリーマンや公園のベンチに座り新聞を読む鳩、煙草を吸って空を見上げる狼など、無数の指向性を持つ人達が灰色の道を歩き、紅い車が交差点を曲がっていった。
まるで瓶の中にあるミニチュアみたいな世界。
それでも、私はここで生きるしかない。
世界の色が灰色であろうと、周りの人が動物に見えたとしても、それが私の認識から来る違和感に基づいたものだとしても。
この世界でひとつだけみつけた、青色の硝子を鞄につけて、自分の欲求について考える。読みたい本、聴きたい曲、描きたい絵、友人の兎のような笑顔、自分が自分として生きるためのリストを心にしまい込んでから、スーツに袖を通して、ひとつだけ大きなため息をつき、仕事へゆく。
大きめのヘッドフォンをつけて、心に曲を抱きながら。
瓶の中で廻り続ける灰色の社会に、しかし新しい色彩を探せるように。
ほんの少しだけ、期待しながら。

 

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